大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1203号 判決

ところで被控訴人は(イ)(ロ)の建物の所有権の異動は、すべて譲渡担保にすぎないから、建物敷地の賃貸人である地主に対する関係では、民法第六百十二条の前提たるべき背信の所為とは云えないと主張する。近時、賃借の需要が賃貸の供給を、はるかにしのいでいるとろから、兎角賃貸借関係の法規の解釈について片面的な賃借人の保護に傾きすぎる右主張の如き考え方がなされ、原判決もこれに副う見解に属すると考えられる。

しかしながらいわゆる譲渡担保なるものは、それが取戻権留保の所有権譲渡行為によるものであつても、再売買の予約又は買戻約款付売買契約等によるものであつても、元来法律に定められた抵当権その他の担保物権設定の方法があるに拘らず、これによらないで、担保という経済上の目的の範囲を超える法律上の効果を生ずる法律行為が意識してなされたものであり、その行為の有利な面(担保権を設定したものにとつても、その譲渡担保がなされたために金融の便が得られたもので、しかも譲渡担保による融資額は単なる抵当権設定の場合よりも多額が期待されよう)を享受する以上、不利な面も甘受しなければならないことを忘れてはならないのである。

借地上の建物を担保という経済上の目的で譲渡したにせよ、建物の所有権は完全に譲受人に移るわけである(内部、外部の関係で所有権の帰属を別異にするというのは単なる形容的なものにすぎず、かようなものが法律上存在するとすれば、新な物権の創設として法の禁ずるところであろう。対抗関係からこれに類似した関係が生ずることはあるにしても、それは法理を全く異にする。)から、建物の譲受人は建物敷地の賃借権をも譲受けるか、又は転貸を受ける以外に敷地使用の権原はないわけである。されば原則として建物の譲受人は、建物存続のため、同時に、譲受人との間においては、敷地の賃借権を譲受け又は転貸を受けたものと解するのが当然である。のみならず、譲渡担保の結果、建物の現実の占有又は管理状態に変更がないとしても、譲渡担保関係からして権利関係の紛淆を来し、建物の敷地の賃貸人との関係にも困難な事態を来す虞れは十分にあるのであるから原判決理由二に掲載された事情だけからして直ちに、背信とはならないとは云えない。ただ本件の場合にあつては、右事情に加えて、(イ)(ロ)の建物はすでに担保の覊絆を脱し、亡和田中三の長男である被控訴人の所有に帰し、((イ)の建物は昭和三十年五月、(ロ)の建物は昭和三十七年十一月)結局被控訴人が亡中三を単独相続(賃借権について共同相続との利害はともあれ)したと同一の結果に帰したとの当事者間に争いのない事情を考慮することによつてのみ、わずかに昭和二十九年当時の譲渡担保を理由として約八年以上経過後の昭和三十七年八月ないし昭和三十八年十月の賃貸借契約解除の意思表示の効力を否定するのが、信義則上相当のものと解することができるのである。

(毛利野 石田哲 加藤)

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